教科書活用4 道に迷う子どもたち

初等教育論

教科書活用04 道に迷う子どもたち

 教科書を見せない、その最たる教科が算数である。
 算数ほど教科書をないがしろにしてきた教科はないだろう。一時期は使わせないことの方が主流だった。

 子どもに使わせない最大の理由は、使えば自分で考えなくなる、ということだった。
 教科書を使わせずに自分たちで解き方を考えていく、教えあっていく、そうした授業の中で子どもたちが「自分の力で」数理を獲得していくという「迷信」が広がっていた。

 その結果、たくさんのことを失った。
 まず子どもたちは教科書を広げないから、そもそも教科書のどこに何が書いてあるかを知らない状態になる。だから復習しようと思っても、どこに何があるのかを自分で探せない子どもが続出した。

 教科書を広げないから一年間でどんな勉強をするのか見通しを立てることもない。

 毎時間、教師が作ってくれたプリントが来るまでじっと待つ学習が続いた時期がある。

 最近はノートを使わせることは増えてきた。それでも、教科書を使わない方針は変わらない。すると、次の手を考える。すなわち教科書にある学習問題をコピーし人数分用意する。

 教師は授業があるたびにその問題を黒板に書くか、あるいは拡大コピーを掲示する。子どもたちは、コピーされた学習問題を配られ、毎回ノートにのり付けする。

 これだけで毎時間5分は失っている。教科書を見れば一目瞭然。10回音読しても、コピーを貼ったり、板書を写す時間よりも手間がかからない。
 何より黒板を写すのが苦手な子どもや、微細運動が苦手な子どもたちは、毎時間それだけで算数が嫌いになっていく。

 それもこれも全て、教科書を見せたら自分で考えなくなるという、迷信を信じているせいである。

 教師も教科書を見せないために先のようなコピーの準備を強いられる。

 教科書を見せずに学習を進めると、全く分からない子どもも出る。すでに塾や通信教育で知っている子どももいる。暗黙の了解を無視しつつ、きれいごとを言っているせいで、子どもたちは悲惨な状況にあるのだ。

 教科書を見せないために、どうしても分からない子どもが出てくる。その時にどうしたいいのか。

 教師は授業中に懸命に子どもたちの間を回っていき、個別指導をしている。当然のことながらそんな程度で全ての子どもが分かるわけもない。

 次に考え出されたのが「ヒントカード」である。分からない子どものために、別の資料として教師が数種類のヒントをつくり、コピーしておいておくのである。
 学習問題だけでなく、ヒントまで教師が事前に準備をするのである。

 分からなければ教科書を見せればいいだろうに、と考えるともはやお笑いである。
 そうした授業が正しい授業であると言われ続け、信じた教師は膨大な時間を使って、算数の授業の準備をしていたのである。

 しかし、残念ながらその取り組みもむなしく、算数の学力はあがらない。自力だから効果が上がったという結果は聞いたことがない。子どもたち中で一定数は塾や通信教育でカバーをしてきたのである。

 そうしたすでに分かっている子どもたちがいたおかげで、交流活動による教えあいが成立していたという現実もある。つまり言い換えれば、塾のおかげで学校のきれいごとが成り立っていたというわけである。本当に全ての子どもがゼロから出発したら、そのきれいごとは成立しない。

「教科書を見せると自分で考えなくなる」という迷信を打破しなければならない。

 これは子どもたちが今も犠牲になっているだけでなく、教師の過重負担の原因にもなっているからである。

 そもそも、子どもが教科書を見たせいで、考えなくなってしまい、授業に著しい影響を与えているという反対の事例を寡聞にして聞いたことがない。

塾に行っている子ども、公文を続けている子ども、通信教育をやっている子どもなど、親に金と時間をかけてもらいながら学習を進めている子どもはもはや、当然のようにいる中で、無償で配られている教科書を見ているせいで、学習に著しく支障がきたすというようなことが果たして本当にあるのだろうか。

 仮に、塾にもいかないのに、教科書を見たせいで先に分かってしまうような子どもが出てきたら、むしろそれは褒められるべき自学能力である。しかし、きっとこうした子どもたちはいたとしてもきわめて少数だろう。

教科書活用シリーズ

教科書活用1 情報の宝庫
教科書活用2 完成度
教科書活用3 見せない現場の教師
教科書活用4 道に迷う子どもたち
教科書活用5 見せない根拠が粗雑
教科書活用6 手順は教科書通りでいい
教科書活用7 子どものため・教師自身のため

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