いきなり泳げるようになる子どももいれば、そうでない子どももいる。それでいい。
私はそばで声をかけている間に、自分の方がテンションが高くなってしまい、あと数メートルになったら「あと〇メートル、立つんじゃないぞ!もう少し!」と激励してしまう。
その姿も周りの子どもたちも見ている。
そうやって本当にゴールにたどり着ける子どもが出てくる。
子どもの方は自分が泳げたのが驚きなのと、ここまで泳ぎ切って疲れたので、何とも言えない表情になっている。私の方が喜んでいる状態だ。はるか向こうのスタート地点で待っている子どもたちも拍手している。
周りにいた(すでに泳げているコースの)子どもたちからも自然に喜びの声と拍手が出てくる。
「よくがんばった。おめでとう。」と声をかけ、すぐに次の子どものところにいく。
泳げた子どもはプールサイドに上がってから、実感することの方が多い。
一人目が泳げたら、子どもの世界は変わる。潜る練習から一緒にやってきた友だちが今目の前で泳げるようになった。自分もいいところまではできるようになっている。
いけるという期待の気持ちと、じぶんはどうかという不安の気持ちがまぜこぜである。
ここから先は技術的な問題よりも、メンタルが左右する。子どもたちの様子をしっかりと見つつ、教師は「絶対に泳げる」という確信をもって、励まし続ける態度が不可欠だ。
だから私は、25mに挑戦する時には、必ずそばで声をかけることにしている。
中には、泳力的に問題がないのに、22mくらいで立つ子どもがいる。毎年一人か二人いる。理由は分からないが、ある種の現状維持バイアスのようなものかなと考えている。頭では泳げた方がいいと思っているのだが、心の奥底で今のままでいいというバイアスがかかるのではないかという推定である。
これは水泳に限らず、あちこちで見られる。実は大人の中にもある。やればできそうなことなのに、「いや、今はやめておきます。」と変化をさえぎる行動に出ることがある。
これまで泳げなかった自分が、泳げないことが普通だったのに、あれよあれよとここまで来てしまった、という急激な変化に、意味もなく戸惑う感覚。
そんな感覚もあるのだ、と理解しているだけで、子どもたちへの言葉かけも変わってくるだろう。
全員25m完泳を目指す水泳指導ラインナップ
水泳指導 準備シリーズ 学年全員の指導をターゲットにします
01 泳げることの向こう
02 指導は5月に始まる
03 指導の全体像
04 子どもたちのエピソード
05 指導の系統
水泳指導 浮きの指導シリーズ 苦手な子どもたちはここからていねいに指導します
06 顔を水につける
07 もぐる
08 浮く指導
09 浮く指導の小さなステップ
10 ふし浮き
11 けのび
12 けのび微細な指導
水泳指導 息つぎの指導シリーズ 25m完泳しない大半の理由はここにあります
13 息つぎ
14 ボビング
15 連続したボビング
16 浮きと呼吸の連動
17 浮きと息つぎの発展
水泳指導 ストロークとキックの指導シリーズ 協応動作という考えを水泳にも取り入れます
18 キックとストローク
19 ストロークどこを見るか
20 腕に水の抵抗を感じるか
21 キックの練習
22 キックとストロークの連動
23 ブレスをいれた泳ぎ
24 クロールのブレス
水泳指導 目標の25mへの指導シリーズ いよいよゴールへ向けて詰めの指導です
25 完泳への力を蓄える
26 目標25mへ
27 完泳までの道のり
28 酸素摂取能力
水泳指導 まとめシリーズ 学校全体で指導ができると負担軽減・効果倍増なのです
29 保護者への話
30 全校での指導
31 全校での指導系統案