主運動の確保 個人編
主運動の時間をいかに確保するかは前述した。
しかし、いかに全体の時間が確保されていても個人が同じとは言えない。
バスケットボールの授業で一度もゲームに出ない子がいるかもしれない。
跳び箱の授業で、一度も跳ばないで終わっている子どもがいるかもしれない。
以前に体育の公開授業を見に行ったことがある。幅跳びと高跳びを同じ時間に行い、子どもたちがそれぞれ選択して取り組むという問題提起のある授業だった。
私は偶然ある子どもの動きを追ってみることにした。その子どもがどのように練習し、二つの場を活用するのかを見ようと思ったのだ。
ところが、その子どもは二つの場を何となく行き来しながら、結局一度も跳ばなかったのである。幅跳びも高跳びも一度も、である。
協議会でも特には取り上げなかった。しかし、私の中では当時強烈な印象を与えた。
子どもの中にはこうやって何もしないで終わる子どももいるのだ、という事実が目の前にあった。こんな子どもたちへの手立てを打ってこそ、授業なのだと思った。
跳び箱運動の第1時で、子どもたちにこんな話をする。
「おうちに体育館がある人?」(子ども笑う。)
「おうちに跳び箱がある人?」(また笑う。)
「そうだよね、では跳び箱の学習はどこでできますか。」(学校。体育館。)
「そうです、今この時間でしか学習できないのです。」
「太郎君と二郎君という二人の子どもがいたとします。
太郎君は跳び箱が大好きで授業のたびにどんどん跳んでいます。反対に二郎君は苦手なので、できるだけ跳ばないでおこうと思って、跳んだ後にゆっくり歩いたり、順番を譲ったりしています。
太郎君は、毎時間30回跳んでいるとします。跳び箱の学習時間は6時間だから、全部で180回跳ぶことになります。これが6年間でなんと780回も練習したことになります。
これに対して二郎君はなんだかんだと1時間に3回しか跳びません。6時間の学習で合計18回、太郎君の1時間分にもなりません。これが6年間で78回です。
780回の太郎君と、78回の二郎君、これで二郎君が太郎君よりも上手になるわけがありません。毎回の少しの差が、積み重なってこうなるのです。
跳び箱が苦手だと思う人は、今ここで練習するのです。今日の目標はまず30回は跳びましょう。」
これで全員が同じように挑戦するようになるとは思わないが、布石にはなる。
続く →13 個人の主運動を確保2
体育指導 「主運動」の時間を確保するための微細シリーズ
01 「主運動」という視点
02 着替え
03 教室移動
04 教室移動(高学年)
05 教室移動(残り時間)
06 準備・片付け
07 準備・片付けの微細なコツ
08 準備運動・集合
09 器具・用具・道具の整備
10 使用割
11 学習カード
12 個人の主運動を確保1
13 個人の主運動を確保2