第2章3節 ネットワーク理論の基礎2「強いつながり」「弱いつながり」 の続き
現代社会のネットワークは多様な層で成立している
人間が固有に持っていた「ネットワーク形成力」に着目して、学級経営を見直そうという試みがこの一連のコンテンツである。
昔から持っていた人間のネットワーク形成力であるが、現代社会のそれは、かつてのものとは意味合いが変わってきている。
それが、ネットワークの多層化である。
原始の社会の頃は、家族というネットワークとその家族をつなぐネットワークの大きく二つでよかった。
やがて、形成するネットワークは巨大になっていき、立場(身分を含む)や役割というネットワークも形成される。
現代では、それがさらに複雑になっている。
例えば、地域(近隣に住む)というネットワークのほかに、職業は別の場所にあるために、そこで別のネットワークを形成することになる。
あるいは、消費行動はまた別の場所で行い、その消費自体もさまざまなものがあるために、場所も方法も変わってくる。
生きていくための食糧確保(仕事)だけでなく、思想や趣味というつながりも生まれてきている。
それは、子どもたちも同じである。
近所で小さなころから一緒に生活をしてきた友だち、学級での係や仕事のつながり、今の座席でのつながり、趣味や考え方のつながり、などなど。
つまり、人間社会を形成するネットワークは現代になるに従い、多様性を高め、いくつもの層によってできていると言える。
小学校で教育を受けるような子どもですら、個人が持っているネットワークの質は、きっとはるか昔の祖先よりもずっと複雑で多様になっているはずである。
現代社会では、これを活用することができる。
つまり、つながりが多様であるということは、そこでの生き方や考え方も多様になっていく。
子どもたちにしてみれば、一つの価値観や思考に縛られることなく、多様な価値観の中で自分のネットワークを発展させることができる。
子どもたちには、近所の友だちの範囲から見れば、学校や学級は「たくさんの友だちがいる場所」に思える。それだけ広い場所である。
また、自分の家のそばや親同士が仲がよかった友だちだけでなく、自分と似たような考えや価値を持っている人と近づくことができる。
さらに具体的に言えば、算数が得意かどうかという基準だけでネットワークが形成されるのではなく、図工という視点、国語という視点、体育という視点でも、つながり方は多様に変化していく。
教師が意図的にネットワークを多様化していくことができれば、子どもたちもさまざまな形のリンクを形成するが可能になることを意味する。
算数の時には、ある子どもが活躍し、その子を中心としたネットワークが形成されるかもしれない。多くの友だちもその子の言動に着目する。
しかし、これが図工になると、違う子どもがその中心となる可能性もある。
算数の時に形成されるネットワークと、図工のそれでは形が大きく異なる可能性は大いにあるのだ。
その多様性は、子どもたちに縛りを与えないで済む。
多くの子どもたちに、存在感と達成感を味わわせる可能性を秘めることになる。
それはあたかも現代のネット社会において、自分の趣味だけで(住んでいるところや職業とは全く関係なく)人間関係を形成できていたり、通信教育や通信販売などでやり取りをする可能性が格段に広がっていることと同じである。
多彩なネットワーク、それは例えば個々の点(ノード)である人間から、何色もの色のつながり(リンク)が発出され、ネットワーク時代がカラフルに見える状態を意味する。
そもそもが子どもたち今生きている社会が、そうした多様な層を織りなすネットワークなのである。
第2章5節 「学級とは広大な人間関係ネットワークの一部」 へ続く
本編 「21世紀型学級経営 学級ネットワーク論」