初任者研修2 5年も成長する教師になる一言
思い出話から入る。
大学を卒業して、すぐに現場に入った。
辞令交付も遅かったせいで、事実上始業式の日に学校に行き、そのまま子どもの前に立った状態で始まった。その10日前はただの学生が、である。
毎日、何をしたのかあまり覚えていない。
後輩にもよく聞いていたのだが、初任の年は覚えていない人が多い。どうやら、記憶するための「仕事のフォーマット」ができていないためだろう。
経験値が少ないと、記憶も残らないようだ。
その中で覚えていることがある。
ある時、職員室で(本当に何気なく)
「先生(八和田のこと)って、熱血だよね。」
と言われた。
自慢とか、そんな話ではない。衝撃だったのだ。
「俺って、熱血なのか?」
自分としては、何かを意図的に進めている自覚は全くない。ともかく毎日目の前の仕事をこなしているのが精いっぱいなのである。
そういう自分が、他者かどう見られているのか、分からない。自覚もない。
そこに「熱血」である。
何も分からない自分はこう考える。
「フツーにやっている自分の姿は、熱血に見えるのか。」
つまり、自分にとって「熱血」の状態がデフォルトなのだ、と。
特別に熱くならなくても、普通にしているだけで熱血に見えるのだという評価は大きい。
しかも、初任である。
完全な刷り込みである。以来、35年間、私は自称「熱血教師」である。(笑)
こんなこともあった。
子どもを廊下で叱るときに、私が膝をついて子どもと目線を併せて話をしていた。
そのことを同学年の(尊敬する)先輩の先生が「新任で、誰からも教えてもらわないのに、あれができるってすごいね。」
正直に言う。
きっと先輩に褒められていなければ、その行動は覚えていないだろう。
ほめられたから、「いい方法だったのだ」と35年経った今でも覚えているのだ。
これを初任者指導にそのまま転用できる。
笑顔が素敵な新任教師がいたとする。
授業は下手でも、いつも子どもの前でにこにこしていたとする。
その新任教師には(新任でなくてもいいけど)
「笑顔が素敵ですね。あなたの笑顔は、これから教師を続けていく上で大切な力になりますよ。」
としっかりと伝えるべきなのである。
本人が意図的に努力していなくても、天性で持っているものがあれば、それは惜しみなく活用させた方がいいに決まっている。
その教師が「自分は笑顔がいいんだ。」と自覚すれば、きっと教師を続ける限りそれをずっと武器にしていけるだろう。
多くの指導では、「できていること」は放置して「できていないこと」だけを指摘しようとする。
マイナスを埋めれば、全体がプラスに転じると思っている。
ある若手教師が、初任の時にこんなことを言っていた。
「自分はそんなにダメな教師なのか。何をやっても、だめだと言われる。」
初任者には自分が教師としての強みが分かっていない。
指導者には分かっていても、本人が自覚してない。
だから弱点だけを指摘されると、それしか見えない。当たり前と言えば当たり前だ。
弱点を指摘するよりも、強みを指摘する方が、(特に若い時ほど)有効である。
個人的には「最近の若手は」と言っている中堅教師を見るのが、あまり好きではない。
自分はもっとひどかったので、最近の若手はみんな優秀に見える。(笑)
そもそも腕のいい人ほど、人の強みをよく見つけることができているようにも思える。感想だが。
強みを強化してあげれば、私のようにそれで35年覚えていることだってあるのだ。
あの何気ない一言が、自分をどれだけ支えてきただろうと思うと、同じメッセージを若手にも送りたいと思う。