どんな授業を見てもらうか その2
自分が取り組んだいくつかのパターンを紹介する。
1 いわゆる「普通の算数の授業」
教科書を使って、淡々と問題を解いていく授業である。
新年度に入って、一番初めはこのタイプの授業をすることが多い。奇をてらった奇抜な授業よりも、いつもやっているような風景を見てもらう。
一見、おもしろくとも何ともなさそうなのだが、ここで見てもらいたいポイントは、子どもたちが授業に集中している姿である。
問題文を読むときに、みんなが声を揃えてきちんと読んでいる。
ノートをていねいに素早く書いている。
教師の指名に対応して、的確に答えている。
何より、授業に集中し、その時間のことをきちんと理解できている。
淡々と授業をしているようだが、心地よい緊張感がある場面を見せるように意図した授業である。
特に算数という教科は、保護者も関心が高い。算数が理解できているかどうかは、学校の勉強についていけているかどうかの試金石のように思っている保護者の方も多い。
だからこそ、「いつもこうやってがんばっているんだなあ」「新しい学年になっても、はりきっているし、きちんと分かっているみたいだな」と感じてもらえるような授業を仕組むことが多い。
子どもたちには、四月の初めからノートをていねいに書くように言い続けてきている。
授業参観でも同じように言う。ちょっと試すように、子どもに仕掛ける。
教師 「ノートの数字や文字は、もちろんていねいに書いていますよね?」
子ども(書きながら)「はい。」(と元気な返事。)
教師 「おうちの人に見られても、恥ずかしくないですよね?」
子ども(ちょっとひるんで)「はい。」
教師 「あれ、ていねいに書いていないんですか?」
子ども(盛り返して)「書いています。」「大丈夫です。」
教師 「じゃあ、おうちの人に見てもらおうかな?」
子ども「え!?」 (保護者の笑い)
教師 「あれ?何か困りますか?」
子ども(話の流れ上)「いいえ、大丈夫です。」
こんなやり取りをした後で、概ね子どもたちが書き終わったのを見計らって話をする。
「それでは、今からおうちの方々にノートを見てもらいます。」
「自分の親ではない人のところに行って、『こんにちは、6年1組の〇〇です。よろしくお願いします。』と言ってノートを見せるんですよ。自分の親は、家でも見てもらえるからね。」
「ほめてもらえたら『ありがとうございます。』と言って、終わりです。」
「これを二人以上のおうちの方にやってください。あ、そうそう。近所や習い事で知っている人のところはだめですよ~。」
これまでに友だち同士でもノートの見せあいこは何度もやっていた。ノートは、大人で言う書類のようなものだから、いつでもだれからでも見られて困るようなことは書かないということはすでに周知済みである。
それを保護者にもやってもらったということだ。
保護者にしてみても、子どもの方がやってきてくれるのだから、学級の友だちの名前を覚えるのには都合がいい。
ある程度ていねいに書いてあるノートを見て、「字が汚いね」という保護者もいないだろう。(今までには出会ったことはない。)みんなリップサービスであってもほめてくれる。
何より照れながらでも、知らない保護者に向かって自分からやってくる子どもたちの姿を見て、学級の雰囲気に安心する。
時間にして1分程度である。
授業の合間に、この時間を割くことで、子どもたちが「ノートは常に公開性を持っている」と改めて自覚してもらえるだけでも、かなり意味があると考えて取り組んできた。
ある時に子どものおばあちゃんが親の代わりに参観に来た。
母親から聞いた後日談では、「こんな授業なら私も子どもの頃受けたかった。」と話してくださったそうだ。教科書を使った淡々とした授業だったのに、ありがたい言葉をいただいた。
そんな言葉が、子どもたちへも伝わっていることを教師は知っておくべきだろうと思う。
2 一日の授業圧縮型
これは国語をメインとして、使うことが多い。
45分の中に、いろいろなものを突っ込む形である。
漢字練習の風景 音読 暗唱 視写 ミニ討論 百人一首などを45分の中に入れる。
さらに時間に余裕があれば、リコーダーや歌も聞かせることもある。組み合わせは、その時々で変える。
前の学年まで、漢字練習や音読練習が家庭学習の定番であり、毎日大変な量をこなしていたことは保護者も知っている。しかし、私が担任になってから、家庭学習でほとんどやらない。昨年まであんなにやっていても、結果が芳しくなかったのに、家でしなくなって大丈夫なのか、と保護者は思っている・・・場合が多い。
そこで、学校での漢字練習や音読の様子をあえて見せる。
漢字練習では、指書きを的確に、テンポよくやっている姿、スキルにていねいに書き込む姿、隣の友だちとミニテストをやっている姿などを見せていく。
子どもたちが堂々としかもテンポよく進めていれば、保護者も安心する。
時折ミニテストやってみる。その場でスキルを閉じさせ、教師が出した問題の漢字を指書きで書かせてみる。その指書きの姿を見て、「だから家で宿題しなくても、こうやって学校で覚えているんだ。」と納得してくれる。
音読も同じである。教科書を両手で正しく持ち、みんながはっきりした声を出して読んでいる姿を見てもらう。時には、全員で保護者の方を向いて、読むこともさせる。
特に高学年であれば、「声が出ないもの」と思っている保護者にとって、子どもたちがはっきりした声で読んでいる姿は、うれしく感じるものである。
漢字や音読、その他の内容も、テンポよく進めることが大切である。子どもたちが、てきぱきと進めている様子は、そのまま集中している姿に映る。
こうやってあえていろいろなものを見せるときに、テンポよくそれぞれを示すと、こんなに一つ一つを集中してやっているのなら、学校での勉強も身に付いているだろうなと安心してもらえる。
ただし、この方法は45分の流れを、という先輩教師や管理職にはなかなか理解してもらえないかもしれない。
3 保護者にも一緒に考えてもらう授業
討論の授業や、投げ込み教材などで行うことが多い。
6年社会 縄文時代
「タイムマシンで現代から一つだけ持っていくとしたら何を選ぶか。」
上学年国語 俳句
「赤とんぼ 筑波に 雲もなかりけり」 空の色は何色か
「古池や 蛙飛び込む 水の音」 語り手には古池は見えているのか
「菜の花や 月は東に 日は西に」 菜の花はどのくらい咲いているのか
上学年国語 助詞
「二つの違いを説明しなさい。」(助詞の一文字だけを変え、どう意味が変わるのか。)
こうした授業は、保護者も一緒になって考えている。結論はどうなるのだろうと、子どもたちと同じ目線で考えている。
子どもたちが意見の交流で席を離れ自由に話をしているときに、「おうちの人の意見も聞いてきなさい」と指示し、参加してもらう形をとる。
また、子どもたちの討論の途中で「保護者の皆さんは、どちらの意見ですか。」と会えて振ってみる。子どもたちも興味津々で見る。
今まで傍観者のようにいればよかっただけの授業参観で、頭をフル回転させることは意外に好評である。
このタイプの授業をした後では、「私も子どもの頃にこんな授業を受けたかったです。」という保護者の話をよく聞かせてもらう。
4 音楽の授業
これは、学習発表会前に、発表会で歌う歌の練習風景を見せるという授業である。
おそらく多くの教師はやらないだろう。ネタバレだからである。
ある年の土曜授業では、隣の担任が参観なのにどうしても休まないといけないということがあった。管理職に了解を得て、学年練習の風景を見てもらったことがある。当然、参観者も学年分である。
いわゆる舞台裏紹介なのだが、これを授業にすることで、発表会当日までの努力の足跡が見えることをねらっている。
この手の授業での絶対的な条件は、参観日の状態よりも、本番の方がずっといい演奏になっていることである。
授業参観シリーズ
01 保護者は我が子を見に来る
02 ネタの向こうに見えるもの
03 算数ノートを見てもらう
04 全部見てもらう
05 保護者を巻き込む授業+おまけ