給食指導のコンセプト
まず第一に、給食という食事の形態は子どもの人生の中でも特別であることを、教師自身が頭に入れておくことである。
大人数が一緒に食事をする。そのほぼ全員に同じメニューが出る。自分たち自身で準備や片付けだけでなく配膳もする。
そのような経験は、それを必要とする職業に就く限り今後出会わない。
学校という業界の特有の作業であると、教師が自覚することである。
教師は退職まで「昼食=給食」だが、子どもたちはせいぜい中学校までのわずか9年間である。
だから、第二として、この限定された期間と枠組みの中で効果的に行うべきことと、食事のマナーや文化のように普遍的に指導することを明確に分けておく必要がある。
私はここに、時間感覚やチームでの作業の効率性の実感などを含めて指導する。この二つは学校生活のあらゆるところで少しずつ指導していく方が結果的に効果があるからだ。
5分とはどのくらいか、1分とはどのくらいか、意識させないと子どもは分からない。
一人でがんばるよりチームで動く方がはるかに効率的であることは、あらゆる活動にも通じる共通の原則であることも意識させていく。
結果として・・・準備や片付けの時間が速い割にせかされず、ほとんど完食し、好き嫌いも減る。
業界限定での指導という点で一つ。
例えば「おかずをつぐ」作業がある。一度に30人以上のおかずをほぼ平等につぎ分けることなど、実は大人でも難しい。
そして、そのような能力は特別に今後必要になるわけでもない。
(もちろん、教育だから何とでも理屈をつければ汎用性は無限に広がるが。)
だから私は、当番の仕事はほとんど固定していた。3週間に1回やってくる給食当番の仕事の中でおかず係は、ほとんどずっとおかず係のままだった。ローテーションで回していなかった。
とはいっても、給食当番が2巡したところで席替えで、給食当番全体も変わるので、一年中おかず係をしているわけでもないが。
「全ての子どもにいろんな体験を」という主旨からはずれるので、賛成しない教師はおおいだろう。しかし、毎回ローテーションすると「おかずをつぐ」という作業そのものは少しも上達しない。毎回時間がかかる。量に偏りが出て文句も出たりする。
それよりも一定数繰り返しをした方が、当番は上手になる。それだけ速く平等に配膳ができるようになる。食べる時間が確保されることの方を私は優先する。
その配膳という技術が、今後社会に出ても必要ならば全員に経験させるべきだろう。しかし、毎回の試行錯誤によるロスと比較しても全員にさせるほどのこともない。
期間と場所が限定された特別な場所での指導なので、はっきり言ってしまえば、その中でうまくいけばいいのである。
だから、最も効率的な作業方法を提示し、うまくいくように指導する。
子どもたちに「自分たちで工夫しなさい」というような試行錯誤させることに重点は置かない。
試行錯誤の結果、失った時間により、食事そのものの時間が削られるのであれば本末転倒である。
給食指導はあくまでも食事がメインであり、準備や片付けはその次である。
教えたとおりに段取りよく進めた結果、準備や片付けが速くできるようになれば、子どもたちは、その成果を実感する。「工夫して協力すれば、時間が速くすむんだ。」と。
その実感なしに試行錯誤を先にさせるから、いつまでも目的を見失ったままになる。
何でもかんでも試行錯誤がいいわけではない。特に子どもは、スムーズに進んだ時の実感がなければ、感覚的にどこまでやればゴールなのかが分からない。
大人であれば試行錯誤から始めても、自分の中にある体験をゴールして取り組むことができる。多くの教師は、「子どもの体感」というゴールを忘れている。
かくして、給食指導のコンセプトは大きくいって次の三つとなる
安全
段取り
マナー・文化 である。
安全という基盤の上に、段取りによる快適な環境を整え、そこに食事のマナーと文化をていねいに教えていく。
このコンセプトをはっきりしないで思いつくままに指導するから、準備にえらく時間がかかり食べる時間が短いのに、「食べるのが遅い!」と叱る羽目になる。
給食指導ラインナップ
給食指導 コンセプト設定
給食指導 時短から始める
給食指導 時短の思想を学ぶ
給食指導 配膳のコツ
給食指導 セルフサービスの意味
給食指導 おかずをつぎ切る
給食指導 完食よりマナー
給食指導 食べ方基礎知識
給食指導 食べ方の指導(高学年)
給食指導 食べ方の指導(低学年)
給食指導 おかわりの指導
給食指導 微細だが重要な食事の指導
給食指導 知的に指導する
給食指導 後片付けその他
給食指導 給食週間と完食指導
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