沈みゆく我が国の現状

働き方改革

沈みゆく我が国の現状

 詳しくは経済関係の書籍に目を通してもらうと分かる話だが、ここでは概略だけをご紹介する。
 特に教育と関わる話だと考えている。

 「失われた30年」という言葉がある。
 1990年ごろをピークに、日本の経済成長はほぼ横ばいである。成長が止まっている。落ちるよりマシと思うかもしれない。
 しかし、同じ30年間の間に、アメリカは約2倍の成長である。
 アメリカだけでない。世界全体の経済の規模が、この30年間で約2倍なのである。中国やアジアの国々の躍進が目立っている。

 日本が現状維持の間に、世界全体で2倍の成長。
 相対的に我が国は貧しくなっているのである。(給料が増えないのもここに起因する。)

 30年前、日本は世界第2位の経済力であった。それもアメリカの半分くらいの経済力はあった。
 それが今では中国に抜かれ、第3位。
 「まだまだいけるじゃないか」と思えそうだが、先頭の2国との差は大きく開くばかり。代わりに後ろが詰まってきている。

 日本が経済大国でいられたのは、人口が多かったという理由が大きい。
 自国で1億2千万人もいれば、日本人好みの物を作っているだけで売れた。単純に市場が大きいから儲かっていただけ、ともいえる。
 我が国は「貿易立国である」と社会科で習ってきた人も多いだろうが、実は「内需(自国の消費)」で十分儲かっていた国なのである。

 30年前には日本の人口はトップ10に入っていたが、今はすでに抜かれている。これからさらに落ちていく。今後、我が国は減少の一途なのだが、日本を追い抜き人口が増えている国はいくつもある。 

 人口と経済成長の問題は、実は切っても切れない重要な関係である。
 日本が戦後の復興期に、人口が増加した。とりもなおさず、それは労働者の供給と、消費の増大の両方に貢献してきたのである。だから、日本では「作れば売れる」時代が長く続いた。

参考文献
「人類超長期予測」 ダイヤモンド社
 ジェニファー・D・シュバ著


 この本では、人口統計による社会分析がかなり詳しくなされていて、我が国の特徴についても(世界でも稀有の例なので)取り上げられている。

 携帯電話が出始めたころ、日本の技術は世界屈指であったと言われている。しかし、国内の企業は日本人好みの携帯電話ばかり作っていた。それで十分に売れるからである。
 機能が多すぎて複雑な日本製は、世界から相手にされなかった。

 「ガラケー」の名はそこから来ている。「ガラパゴス携帯」、南米のガラパゴス諸島は大陸からあまりに離れているために、生物たちが独自の進化を遂げた。ガラパゴス諸島でしか生息しない生き物がたくさんいるのである。
 「ガラケー」とは、日本でしか「生息してない」携帯電話への揶揄である。
 人口が多いから経済力があるように見えただけだから一人当たりのGNPで計算すると、世界で22位とか23位とかまで落ちる。
 決してものすごく裕福なわけでもない。

 これから人口が急激に減っていく。
 それだけ単純に経済力は落ちていくことは分かっている。特別な計算が必要なわけでもないので、ちょっと経済を知っている人はみんな悲観的な予測しかしない。
(もちろん、それでいいという人もいる。)

 国内では「上がらない給料」だが、世界から見れば相対的に下がっている。
 日本の物価は、世界から見れば安くなってきている。
 外国人が観光で買い物をするのは、日本の製品がいいからだけではない。安いから、というのも大きな理由になっているのだ。

 ディズニーランドは世界各地にあるが、東京ディズニーランドが一番安いらしい。
 100円ショップのダイソーは世界進出しているが、本当に100円の価値で売っているのは日本だけで、進出した世界の店ではもっと高い値段で売っているそうだ。

 
参考文献「安いニッポン 『価格』が示す停滞」
  中藤玲 日経プレミア


この本から見える日本の位置づけには正直驚くことばかりだった。

 個人の給料の問題だけではない。
 日本全体の価値が下がっている。安く買いたたかれている。
 観光地の土地やホテルを外国資本が買っているという話はずいぶん前からある。
 日本の中小企業が、社員ごと会社をまるごと外国資本が買い取るという話もある。

 小規模だけれど世界と戦えるような中小企業が日本にはたくさんあるが、それらがそっくり外国に売られている危険がある。
 山奥の水源や山林を買い取られているという話もある。

 そういう問題は、あまりニュースで話題にならない。なぜかは知らないが。

 悲観的な話を長々と書いた。

 教師に直接関係あることは二つある。

 一つは給料である。
 あれこれ言われているが、おそらく教師の給料が上がったり、残業手当が支給されるようなことは、たぶんない。
 ないと思っていていい。期待しないことである。
 私自身の給料も、何年も据え置きのままだった。ずっと明細を取っていたのですぐに比較ができた。
 諸手当はいろいろな理由で削られた。年収レベルで見ればおそらく下がっている。

 ※最新ニュースで与党が給特法の見直し案の検討に入るとあった。
  いつ結論が出て、それがどのように具体化されるのかは分からないが、上がるなら上がらないより
  はるかにマシである。

 民間が上がらないのだ。
 公務員の給料が上がるのは考えにくい。教師のブラック度を理解してくれる人もいるだろうが、だからと言って給料上げますという話に「いいことだ、どんどんやってくれ」と国民が歓迎してくれるとは思えない。

 そうでなくても、毎年赤字財政なのだ。
 もしかしたら、どこかの地方公共団体が自らの財源で少しばかり給料を増やすということをやるかもしれない。
 しかし、それもごくわずかだろうし、全国に期待するものはない。

 日本全体の退職金の金額は減少しているという。
 年功序列は時間とともに消えていくだろう。賢い20代は、もう初めから期待していない。そのあたり感覚が鋭い人ほど、状況が見えている。
 (参考1「コスパが話題になる理由」
 (参考2給料がいくらになれば人が増える」

 もう一つはICTである。
 日本がICT関連で、出遅れていることも周知の事実である。
 企業の導入も芳しくなく、そのせいで生産性が落ちているのではないか、要するに利益が上がらず無駄な仕事をしていないかと、指摘されているが劇的な改善はみられていない。
 行政に至っては、なにをかいわんやである。

 その流れからすれば、教育におけるICTの活用は、遠くない将来の国家の命運を左右する重要な問題となる。
 ここで、ICT推進の流れが止まれば、10年後、20年後、子どもたちが社会に出るころにはもう追いつけない状態になる。アメリカに、ではない。アジアをはじめとする世界各国に、である。

 つまり、二つを合わせると、
 「働く条件はこのまま変わらないけど、さらにがんばってね、ごめんね」というのが社会から教育現場への要請なのである。

 沈みゆく国の中において、教師の働き方改革とはどこを目指しているのか。

 現状の複雑ゆえに、一言では説明できない。このサイトを通して、目指すべき方向について論じていくつもりである。

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