「おへそをこちらに向けなさい」
子どもたちに話を聞かせるときに出す指示の一つである。もうあまりに有名になってしまった。なぜこの指示ならば、子どもたちの意識が教師に向くようになるのだろうか。その原理が分かると、指示の言葉の応用範囲は広がっていく。
まずは、指示が「行動を表している」ことは重要な要因である。しかも、その行動はやっている子ども自身も、見ている教師にもはっきりと見えるということだ。
「先生の目を見ましょう」と比べてみるといい。眼球を動かすだけの行動よりも体全体を動かしている方がはっきりとわかる。
この指示によって行動がわかるのは、子ども自身や教師だけでない。近くに友だちも分かるという点が大きい。雑然と座っている子どもたちのうち一部が、この指示によって体の向きを変える。
話を聞いていなかった子どもたちだけが、体の向きが異なっている。この状態によって、指示を聞いていなかった子どもも、行動を起こすように促されるのである。その点も、目を動かすだけよりも他への影響が大きいと言える。
この原理によって、手を挙げる、立つ、などの動作は同じような効果があることが分かる。
「先生の声が聞こえたら、手を挙げましょう」が効果があるのはこのためである。
また行動を促されると、次の指示があるのではないかと想像させる。おへそを向けた後に、次は何をするのだろうという期待感がある。だから、こうした指示の場合は、テンポよく進めなければならない。
「おへそを向けて、それがどうした。」となれば、次からは聞かなくなる。間髪入れずに話を始めるか、今の態度をほめる、さらに追加の指示によってさらに集中させるかなどの組み立てが絶対に必要である。
その期待感が、子どもたちに聞く態度を促している。話を聞きなさいと言わずとも、次の言葉を待つ態度になっていくのである。
さらには、実は「おへそ」という言葉が子どもにとっては響くのである。日頃人に見せるものでもない、それでも体の真ん中にあって何か気になる存在、それがおへそである。
どことなくおかしさやおもしろさを感じるコンテンツの一つがおへそなのだ。
だから、この指示を中学生以上すると、むしろ体を向けない子どももでるかもしれない。大人に出せば「セクハラですか。」と誤解をされるような違和感が生じる。
そうした子ども特有の言葉の感覚を絶妙についた指示なのである。