算数学力向上の提案 ステップ1
算数の学力を今よりもさらに高めていくために以下の提案をします。
1 教科書を使い切りシンプルな授業をめざす
こんな学習をイメージしてください。
(1)子どもが教科書を使いこなせるようになる。
(2)教師の教材研究に教科書を利用する。
(3)教科書の問題を全て解けるようにする。
2 教科書の優れた点
人間は知恵を伝えるときに、本や巻物といった紙に編集したものを活用しました。
これらを広く「テキスト」と呼びます。この「テキスト」には優れた原理があります。
(1)一覧 この一冊にするべき課題が全てあります。
(2)順序 どの順番で進めていけばいいかが一目で分かります。
(3)経過 今どこまで進んでいて、これから何をすればいいかが分かります。
(4)反復 忘れたり分からなくなったりすれば何度でも振り返ることができます。
さらに教科書に限定するといくつかの特徴があります。
(1)修正 検定にかかり、同時に常に多くの目にさらされ、修正を繰り返しています。
(2)厳選 限られた紙面を効果的に使うために内容は選りすぐられています。
(3)系統 学年を超え一貫した構造で作られています。
(4)構成 文字の大きさ、改行、言葉、イラストまで考え抜かれています。
(5)無償 教科書は全ての子どもがもつことができる教材です。
3 算数で教科書を「使い切る」とは
(1)授業では子どもたちに教科書を見せ、積極的に使わせる。
(2)子どもたちに教科書の使い方を教え、自学ができるようにする。
(3)教科書とノートを連動させて、書くべき内容を厳選する。
(4)教師は教科書の構造を理解し授業の進め方を考える。
(5)教科書の問題は全て自力で解けるようにする。
ただし・・・・
教科書は授業の中で使うための教材です。そこが通信教育のテキストと大きく異なる点です。教師の使い方でそのあり方は大きく異なるのです。
4 教科書が使いこなせるようになると・・・
(1)始業と同時に、子どもたちは何を勉強するのか一目で分かるようになります。
(2)家で分からなくなっても自分で確かめることができます。
(3)授業中も子どもたちが自分で解決しようとします。
(4)学習の道筋が分かり子どもたちが安定します。
(5)授業の効率が格段に上がります。今までよりも速いスピードで進められます。
(6)教材研究の時間が格段に短縮されます。
(7)新しい教育の方向にシフトするだけの余裕が生まれます。
5 従来の学習と何が違うのか
わり算の筆算を例に挙げると・・・
今まではわり算の筆算のやり方について自力解決の時間を使っていました。
しかし、わり算の筆算は誰がどうやっても同じ方法に落ち着くのです。
ですから塾などですでに学習している子どもには退屈な時間です。
反対に分からない子どもたちには自力解決が苦痛なのです。
そして(結論が決まっているのに)一つ一つ自力解決をさせて時間がかかっていました。 授業時間が足りず、宿題が不可欠となり、家で練習しなければ定着しません。
そして単元終わりのまとめの問題などが十分に扱えずに終わります。
これから筆算の方法は明確に教え、まとめなどで自力解決をさせていきます。
計算の原理や仕組みは教科書を見せて理解させます。
授業の中で練習問題を解き、計算の技能などは授業で定着させます。
宿題は出してもいいですが、その依存度はかなり下がります。
時間も短くてすみます。
後半の発展的な問題で時間を使えるようになり、ここで自力解決の能力を生かせます。
バスケットボールで言えば・・・
今まではドリブルシュートの上手なやり方について「自力解決」させてました。
その結果、練習時間が足りず、結果的に家で追加の練習が必要です。
そして、ドリブルシュートだけできても試合には勝てないのです。
これからはドリブルシュートは指導者がきちんと教えます。
練習時間で教えるので、どの子どももできるようになります。
そして、そのドリブルシュートを試合のどこで使うかを考えさせていくのです。
ただし・・・
一桁の加減乗除は一定の定着が必要になります。
ここが苦手な子どもには別の手立てが必要となります。(後に詳しく解説します。)
算数学力向上の提案 ステップ2
教科書を使った授業について具体的に述べていきます。
1 始業時に子どもたちが教科書を開いておく。
これは学習準備を進める上で分かりやすい目安となります。
子どもたちにとっても今日何をするのかが一目で分かります。
2 問題を読む。
教科書を開いておけば、板書する必要もありません。
子どもにノートに書かせる必要もありません。
これだけで単純に5分以上短縮します。
「学習の足跡を残すために、ノートに問題を書くべき」という主張もあります。一理ありますが、後になって見るために今の時間を使うことが本当に必要かという視点が欠けています。
そして、教科書を使えるようになれば子どもは教科書を復習の道具に使います。
3 めあての多くは教科書に示してあります。
一時期、子どもたち自身からめあてを出させようという風潮がありました。目の前の問題が興味を引くものであれば、子どもたちは自然と学習に向かいます。
4 見通しも教科書に書いてあります。
実際の教室には、すでに塾などで習っている子どもと、既習内容すらすっかり忘れている子どもが一緒に過ごしています。両者を満足させる見通しを出すことは理想論です。
事実、子どもたちは時折ポイントをはずしたことを言います。その結果、全体が混乱しているということがあります。
問題も、めあても、見通しも、教科書を使わないから全て教師がリードし板書しながら子どものノートに書かせていかなければなりません。
教科書を使えるようなれば、これらの時間は一気に短縮します。
教科書を見せると、子どもが受け身になる・・・は本当か。
むしろ反対です。苦手な子どもほど、教科書を使ってフィードバックしようとします。そして、分かるようになると自然と見なくなるのです。
家電の取扱説明書と同じです。炊飯器でやりたいことはご飯を炊くこと。それができないから取説を読もうとします。取説がないとご飯が炊けません。でも分かるようになると自分でします。同じです。炊飯器が使えれば子どもは自分でご飯が炊けます。
5 練習問題は数ではない。
毎日、教科書の問題を自分で解いて、答え合わせとやり直しが確実にできれば、(それが難しいのですが)ほとんどの場合、それで身につきます。
極論を言えば、ドリル3回はおろか、ドリルそのものも不要になってくるくらいです。
代わりに必要なのはていねいさです。
算数の学習の多くは、アルゴリズム(手順)の定着です。
かけ算の筆算を間違えるのは大きく言って二つです。一つが一桁のかけ算や足し算を間違えること。もう一つが手順が混乱していることです。
二つを混同して考えるから、指導も混乱し力もつかないのです。
先にも述べましたが、一桁の加減乗除は別の手立てで習熟しないといけません。
この単元で最も重要なことは、かけ算の筆算のアルゴリズムを身につけることです。そして、それは数をこなすことではなく、ていねいさによって身につけるのです。
数をこなさせると、子どもたちはむしろ「粗い」作業をしようとします。
ミスがあろうがなかろうが、ともかく量をこなさないと叱られるのですから。
ドリルを使って30問解くよりは、教科書の問題をもう一度ていねいに10問やって答え合わせとやり直しまでやった方がはるかに力がつきます。
子どもも楽で、教師も楽です。ついでに言うと、「筆算のやり方」という説明を友だち同士でさせたり、解説書を書かせるような自学をするのも方法です。説明ができると言うことは、アルゴリズムが定着しているということの明確な証明となります。
6 多様な考え?
筆算の習得のような「結果として同じことをする」学習に、多様な考えは不要です。いえ、むしろそれによって混乱する子どもが出てくることは、感覚的におわかりのはずです。
筆算の手順は、いわば「文化」です。正確に伝えなければなりません。先人が生み出した貴重な財産なのです。
これからの算数では、その筆算を使って何ができるのかを教えることが求められているのです。つまり「多様な考え」が必要なのは、単元の後半なのです。文章題や応用問題、活用問題などに積極的に取り組んでいくような学習が求められているのです。
7 学力の定着
一つが教科書の練習問題は一通り解けるようにすることです。「解いてみた」は最低限ですが、「自分でやって正解できる」「先生が突然試しても何度でもできる」レベルになっていればかなり大丈夫です。ドリルを大量にするより効果があります。
単元末のまとめを自力で解いて全部正解する、というのが一つの目安です。これができれば、テストでもほとんど問題ありません。
教師も子どもも目標がはっきりし、取り組みもチェックも格段に効率よくなります。
算数学力向上の提案 ステップ3
今回は、さらに授業を効果的に進めるための具体的な内容です。
1 道具はそろえる
鉛筆、赤鉛筆、消しゴム、そして定規は必須道具です。
家庭環境や子どもの実態が原因で、そろえることが難しい場合は、貸しましょう。
「なくて不自由な思いをさせると分かる」と思いますが、子どもは道具がない環境に慣れるだけです。あるいは人のものを勝手に借りたりすることですませます。
2 ノートはていねいに
毎時間、日付と教科書のページ数は必ず書かせます。それが教科書と連動させるための必須条件です。
数字は大きく、濃く、はっきりと書かせます。基本はマスに1個の数字です。小学校は十進法を教えることが基本です。位取りが不明確な指導は致命的です。
めあてや問題、さらには見通しは書かなくていいです。教科書を使い、教科書とノートを連動できるようになればノートに書く必要は一切なくなります。むしろこれによって、かなりの時間を授業時間で確保できます。
計算はゆったりとスペースを空けて書かせます。これはかなり指導が必要です。
3 めあて
ノートにめあてがないと何の勉強か分からない、という意見もあるでしょう。この場合は、日付やページ数の横に短く書いておけばいいです。
× わり算の筆算の計算の仕方を考えよう
○ わり算の筆算
このめあての文章をどうするかという課題によって、さまざまな支障を来していると思っているのですが、それはまたいずれ。
4 宿題チェック
何度も示しましたが、量が多ければいいのではないのです。むしろ弊害が出ます。
筆算の計算練習なら10問程度いいです。代わりにていねいさが必要です。宿題は、定着が目的で行うはずです。(低学年はちょっと違いますが)
次の日に、1問でいいから宿題に出した問題をその場で解かせます。これで正解していればいいのです。正解しないのは、どこかに課題があります。全問やっているかどうかは隣同士のチェックで十分です。10問ならすぐできます。
5 音読
算数でも音読は必要です。問題文はノートに書かなくていいです。代わりにすらすら読めなければなりません。読めないような問題を解けるわけもありませんから。
その意味では、書くために使っていた時間を音読に当ててすらすらと読めるようにしましょう。
これは「まとめ」や「定義」「用語」などでも同じです。
もうおわかりかと思いますが、まとめや定義も教科書の言葉を使えばいいのです。この辺りはさすがに教科書です。厳選され、分かりやすい言葉になっています。
6 教師の説明
教師の説明は極力不要です。説明ではなく、活動で理解させるのです。
指示と発問と説明を比率で言えば、4:5:1くらいです。
7 子どもの説明(交流)
子ども同士の説明は時として有効です。ただしこのときに気をつけることがあります。
端的に説明する、この一点です。
もともと算数、数学は複雑な計算処理や図形の分析を記号を使って進めていく学問です。式そのものが一つの説明です。しかし、あまりに端的すぎて、その背景が見えなくなっているのです。
子ども同士が説明し合うなら、短く話をさせることに心がけましょう。ノートに説明を書くときも同じです。
ちなみに、子どもの話す力を鍛えるのには、いくつかの観点があります。短く説明できることも長く説明できることも両方とも必要です。それはケースによって異なります。
算数の場合は、多くの場合短い方が効果的です。(時に長い方がいい場合もあります。)
8 テストは単元終了後にすぐする
学期末にためておいて、子どもたちがいい結果を出せるわけがありません。テストが全て出なくても、子どもたちのメンタルを考えれば結果が出るようにするべきです。
ましてや今年度からは二学期制です。6月や7月の単元を9月にするようなことがあってはいけません。
9 用語や定義は暗記レベル
数は少ないですが、用語や定義が出てきます。それらは確実に覚えさせてください。
例えば6年生の「対称の軸」など言えない子どもはかなり出てきます。(自戒を込めて) テストで言えば、いわゆる「知識理解」の部分はほぼ満点になるくらいの水準が必要です。授業の中で「これは丸暗記しなさい」と言ってもいいくらいです。
こうしたことは教師が示さないと、子ども自身はどれが大切なのを自覚できません。