仮に全国の教師に、残業手当を払うとしたらどのくらい必要なのかという試算を見たことがある。
なんと8000億円から1兆円になるという。
逆に言えば、全国の教師は1兆円分のタダ働きをしていることになる。
理由はいうまでもなく、教員調整手当が出されているせいで、それ以外の残業は手当にカウントしないという制度によっているためだ。
代わりに勤務時間が超過した分は、振替休暇を取ることで補うことになっている。しかし、事実上これもザルである。
さて1兆円だが、これを国家や地方公共団体がいつの日か払ってくれるのかというと、そういうことは絶対にない(と私は思っている)。
理由はただ一つである。
残業代を払わなくても教師が働いてくれるからだ。
実際に現場を見ると、授業の準備が間に合わない、テストの採点をしなければならないと、時間外に仕事をしている人はごく普通にいる。
仮に日本中の教師が、定時に帰るようになったらどうなるだろう。
宿題やテストの確認が終わっていなくても帰る。すると、見ないままの状態が続く。
教材研究が間に合わなくても帰る。すると、翌日の授業はぼろぼろのまま進む。
子どもたちのトラブルがあっても解決せずに帰る。すると、保護者からクレームが出る。
それでも、定時で終わる分量の仕事だけを日々していく。保護者が怒鳴り込もうが、定時ならさっさと帰る。
このようなことをやっていたら、半年も持たずに現場は崩壊するだろう。
それを分かっているから、現場の教師は、残業という選択肢を取っているのである。行政は、結果として、この状況を見て見ぬふりをしている。
教師が開き直らないことを実感として分かっているから、現状を放置しておいていいと思っている。
つまり、残業を前提とする仕事の仕方を容認している現場の善意に、甘えているのである。
しかも、何のリミッターもない状態で無報酬残業を黙認しているために、その状況には事実上、歯止めがかからなくなる。