割れ窓理論

教育技術シリーズ

 「割れ窓理論」をご存じの方も多いと思う。

 アメリカで実験があったという話である。
 路上に車を放置しておいたときに、その窓ガラスが割れている時と、そうでない時では、盗難や破損の状況が違うという結果が出た。窓ガラスが割られていると、中のものを盗まれたり、傷をつけられたりする度合いが高くなるということだ。

 環境がモラルに影響を与えるという話である。
 かつてニューヨークの地下鉄は犯罪の温床といわれていた。
 犯罪対策として取った市長の対応は、ペンキで描かれていた車両への落書きを徹底的に消していったことだという。何度か描かれても消し続けていくうちに、やがて落書きも減り、そして犯罪も減っていった。一見、犯罪とは無関係に見えそうな落書き消しによって、犯罪を抑止することに成功した。

 これは割れ窓理論を応用した犯罪予防の方法の一つである。

 子どもたちの昇降口に、時折「置き傘」がある。単に持って帰るのを忘れただけかもしれない。

 かさが置きっぱなしの状態から、それが乱雑に置かれている状態となる。やがて一本、二本と壊れたりする。(いたずらもあれば、古くなったものもあるだろう。)
 それが日常化すると、「壊してもいい」「いたずらしてもいい」という感覚に陥りやすくなっていくことは、割れ窓理論を持ち出さずとも容易に理解できそうである。

 学校にはこうした事案が、実は山のようにある。
 学級文庫や掃除道具が乱雑になっていると、子どもたちは扱い方が粗雑になる。
 机の配置が乱れていると、動線が混乱してトラブルが起こりやすくなる。
 不要になった紙がリサイクル箱にいつまでも放置されていると、そこから勝手に持って行く子が出てくる。
 掲示物の画鋲やマグネットがはずれていると、破れやすくなり、それがいたずらを誘う。ほこりをかぶっているものは、ゴミと同様に扱われる。

 かさや靴は、教室から離れているので、教師の目が届きにくい。
 だから「割れ窓理論」の影響をより受けやすくなる。

 これは、教師が毎日靴箱を見に行くだけで、かなりの抑止力になる。ここが大切なところだが、見に行くだけでも効果がある。(もちろん、置き傘は、指導して片付けた方がいいのだが。)

 ちなみに、教室の管理についていえば、この「割れ窓理論」と相性がいいのが「ごみを10個拾いましょう。」という指示である。
 帰る直前や、図工などの後で教室が散らかっているときなどに、この「ごみを10個」の指示を出すことがある。やがては「ごみ10個」だけでなく、「自分で考えて教室をきれいにしましょう。」などと進化する。
 この一日のうちのわずかな時間が、「教師の割れ窓」を防止する。しかも、子ども自身がその主役としてである。
 日々、子どもたちと教室のメンテナンスをしているだけで、整頓を維持できる。

 余談だが、「お掃除」の本によく書いてあるのは、玄関は運を招き寄せる場だから、そこをきれいにしておくことは、いい運を招くことになるそうだ。
 私は、朝起きて洗面を済ませた後、朝刊を取りに行くついでに、必ず玄関掃除をしている。(*^^*)

 

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